2020/04/07
HINKEの練習方法
オーボエをはじめたら、誰もが練習するエチュード、「HINKE」。
けれど、ほとんどのひとがただ楽譜どおりに吹くことばかりに気を取られてしまいがちです。
「HINKE」のひとつひとつの楽曲に込められた、作曲者グスタフ・アドルフ・ヒンケの意図を汲めずにただ機械的に練習するのはもったいないかぎりです。
百数十年の時を経て、いまも「HINKE」が不滅のエチュードとして愛されているその理由に迫りながら、「HINKE」のより効果的な練習方法を考えていきたいと思います。
目次
1. まず模範演奏を何度も聴く
どんな曲を練習するときにも通じる鉄則があります。
それは、頭のなかにその楽曲のメロディが自然に流れるまで、模範演奏を何度も聴き込むことです。
目標となる演奏イメージがないままにオーボエを吹いても、それは目的地が決まらないまま走ることと同じで、いつまで経っても理想のゴールには辿り着きません。
最初は、ただ聴いてもなにもわからないかもしれません。それでもいいのです。
繰り返し、繰り返し聴き続けるうちに、それぞれの楽曲に込められたさまざまな狙いに気づけるときがきっとやってきます。
いきなり吹くのではなく、ぜひこの模範演奏を何度も聴くことからはじめてください。
レッスンを受けるそのまえに、模範演奏を何度も繰り返して聴いておくことで、教えていただく内容もよりスムーズに頭に入っていくでしょう。
できなくても、先生のおっしゃることがわかる、それがいちばん大切なことなのです。
そのためにも、模範演奏を聴き込み、その楽曲のアウトラインを自分の頭のなかにくっきりと刻むことからはじめていただきたいのです。
2. 模範演奏を聴きながら歌ってみる
次に行っていただきたいのが、それぞれの楽曲を歌うことです。
ただ楽譜を見て吹くだけでは、息の吹き込み方やオーボエの操作に気を取られ、とても音楽表現どころではありません。
最初はそれでもいいという考え方もできるでしょうが、より高いレベルのオーボエ奏者を目指すのならば、それではもったいないのです。
模範演奏がある程度頭に入ってきたら、こんどはそれを歌ってみるのです。
楽器と違って歌うのなら、より自分の思うとおりに再現することができるでしょう。
決してひとに聴かせるために歌うわけではありません。
でも、だからこそ、より感情を込めて、より音楽的に表現していただきたいのです。
模範演奏と自分の歌い方がどう違うのか、それがわかるようになれぱ合格です。
たとえばクレッシェンドの頂点は、どの音符にかかっているのか。楽譜に記されたさまざまなアーティキュレーションをどれだけ的確に表現して歌えているか。
そういった、いきなりオーボエを吹いてしまったらとても気にすることも、かなえることもできない細かなニュアンスまで、歌うことで身につけていただきたいのです。
「歌えないものは演奏できない」、これはオーボエはもちろん、ピアノをはじめすべての楽器でいわれていることです。
ぜひ歌いこんでいただきたいのです。
3. その楽曲のスケールを練習する
「HINKE」のいちばん最初の楽曲はヘ長調です。
C-dur、ハ長調ではないのです。
いきなりB♭が出てきます。
ハ長調のドレミファソラシドだけしか吹いていなければ、このへ長調のシの♭、B♭で、もうつまづいてしまいます。
この楽曲に限らず、もちろん「HINKE」に限らず、あなたがなにかの曲を吹くときは、必ずその曲を練習するまえに、その曲の調のスケールを練習してください。
それぞれの調のドレミファソラシド、ドシラソソファミレドという1オクターブはもちろん、ドレミファソラシドレミファソラシド、ドシラソファミレドシラソファミレドという2オクターブ、さらにその上下まで含めて、オーボエが奏でられる全音域のその調を、しかも上行、下行ともにスムーズに吹けることを目指していただきたいのです。
「HINKE」後半には、このスケール練習のエチュードがまとめられています。
でも、最初からそれをやらなくてもいいのです。
まず1オクターブの単純な上行、下行からはじめてください。
そのあと2オクターブの上行、下行を連続して練習してください。
メトロノームを自分ができる最も遅いテンポにして、ゆっくり何度も練習を重ねてください。
できないテンポで練習することくらい自分を痛めつける練習はありません。
自分ができるテンポで、気持ちよく練習することで、だんだんとできるテンポも上がってきます。
オーボエをはじめたひとなら誰もが憧れる、モーツァルトの「オーボエ協奏曲」。
それが実は、スケールの集合でできていることをあなたはご存じでしょうか。
スケールはまさにすべての音楽の基本であり、終着点なのです。
4.それぞれの楽曲の狙いを理解する
実は「HINKE」のそれぞれの楽曲には、エチュード、練習曲としての狙いが込められているのです。
たとえば1番は「呼吸」と「タンギング」です。
息を吐くところで充分に吐いて、息を吸うところで十二分吸う。
反対に、「呼吸」のポイント以外では、「呼吸」はしない。
そのメリハリ、区別は絶対といっていいほど守っていただきたいのです。
「呼吸」すべきところで「呼吸」できないから、「呼吸」してはいけないところで無意識のうちに「呼吸」してしまうのです。
また、曲の頭はもろちん、タンギングすべきところではしっかりとタンギングし、タンギングしないところではタンギングしない。
運指よりもなによりも、この1番ではそれが最も大切な課題です。
そして、それぞれの楽曲には、それぞれの課題、演奏テーマが存在します。
レッスンを受けている先生がいらっしゃるなら、ぜひそれを教えていただき、作曲者HINKEの狙いを意識して練習することで、より効果的な練習がかなえられるのです。
5. 自分が吹けるテンポで練習する
「HINKE」最初のほうの楽曲では、テンポを示す表記がされていません。
それはテンポ以上に大切にしてもらいたいテーマがあるからです。
後半にいくとテンポを示す表記もなされていきます。
表記されたテンポで吹く練習をHINKEが求めているからです。
しかしながら、最初のうちはそんなテンポの強制はまったくないのです。
あなたができる、あなたが吹きたい、そのテンポで練習してください。
大切なポイントはテンポ以外にあります。
そのボイントを守るなら、どんなテンポで吹いてもかまわないというのが作曲者HINKEのメッセージなのです。
メトロノームを思い切り遅く設定して、自分がこれなら吹けるという、もう少し遅いテンポから練習をはじめてください。
余裕を持って練習することも上達に欠かせない条件です。
あなたが余裕を持って吹けるテンポが、あなたが練習で吹くべきテンポなのです。
そして、もう少しテンポをあげても吹けるなと心のなかで確信を持てたら、テンポを上げていけばいいのです。
できないことをできるようにするのが練習ではありません。
できることをもっとよくできるようにするのが練習です。
あなたはあなたがいま余裕をもって吹けるテンポで練習すればいいのです。
それが理想のテンポで吹けるようになる最短距離の練習であることをぜひご理解いただきたいのです。
6. 自分の演奏を録音して聴く
すべてのオーボエ演奏者がいちばん聴きたくないもの、それが自分自身の演奏です。
これはあなただけでなく、日本を代表する、世界を代表するオーボエ奏者の方々も同じことなのです。
自分の理想と、自分の現実との違いほど、悲しいものはありません。
理想が高いぶん、自分の現実には目をそむけたくなるものです。
だから、自分の演奏が聴きたくないというのは、あなたの向上心そのもので、素晴らしいことなのです。
だからこそ、あなたにはあなたご自身の演奏を聴いていただきたいのです。
あなたはもっと上達したいからこそ、練習しているはずです。
ならばいまのあなたの演奏があなたの理想に足りていないぶん、それはすべてあなたの伸び代に違いないのです。
自分の伸び代はどこにあるか、それを知ることで、あなたは上達の最短距離を歩むことができるのです。
自分の演奏を聴くことくらい辛いことはないかもしれません。
でも、それはあなたの上達を速めてくれるいちばんの薬だということをぜひ理解していただきたいのです。
7. 過去に練習した楽曲をもういちど吹いてみる
どんなに練習を重ねても、自分が期待したようには上達していきません。
こんなに練習しているのにと唇を噛むのは、練習しているひとほど思うことでしょう。
練習していないのならあきらめもつくでしょうが、ひといちばい練習しているのに自分が思ったように上達しないということくらい悲しく、悔しいことはありません。
神さまは自分には才能というギフトをくれなかったんだと羨む気持ちも湧いてきます。
でも、残念なお知らせがあります。
練習してもまったく上達しないのならあきらめもつくでしょう。
けれど音楽の神さまはもっと過酷な現実をつきつけてくださいます。
それは、確かに前よりは上達しているという現実です。
以前の自分の演奏の記録が残っているなら聴き比べてみてください。
いや、聴くまでもなく、自分自身でもそれはわかっているはずです。
そう、上達速度はあなたが満足できる速さではないかもしれませんが、以前とは比べようもないくらい上達している自分がいるのです。
そんな自分をぜひ褒めてあげていただきたいのです。
先生も誰も、褒めてほしいひとは誰も褒めてくれないかもしれません。
だからこそ、自分自身を褒めてあげてほしいのです。
あとは時間の問題だけなのです。
それに気がついたひとが、飽くなき練習の道にもう一度戻って、地道な努力を重ね、その結果自分の夢をかなえるということをあなたにもぜひ気づいていただきたいのです。
8. 果てしない向上心を抱き続ける
あのホリガー先生が、あのコッホ先生が、あの宮本文昭先生が、あの茂木大輔先生がこのHINKEを吹かれたら、いったいどんな演奏になるのだろう。
どんな音色で、どんなテンポで、いったいどんな演奏を聴かせてくださるのか。
想像するだけでもワクワクしてしまいます。
そんな果てしない想像力をめぐらしながら、練習を続けていただきたいのです。
ただ機械的に楽譜通りの、音程もリズムもテンポも一切狂いない演奏を実現したところで、それはボーカロイド、ロボットの演奏でしかありません。
楽譜に書かれていない音間にこそ、HINKEが最も注ぎたかった、それぞれの楽曲への想いがあるはずです。
それを想像することはまさに見果てぬ夢のまたその先の夢。
でも、それが音楽というものなのです。
どんなに練習しても、どんなに高い演奏技術を身につけても、その先には果てしのない理想が広がります。
もしかしたら、作者HINKEでさえ想像できなかった到達点に誰かが辿りつくのかもしれません。
そして、あなたもそんなひとりとしてのオーボエ奏者を目指していただきたいのです。
まとめ
ただ楽譜に描かれた音符を追いかけて練習するのでは、ただ練習のための練習になってしまいます。
作曲者HINKEの意図を読み取り、的確な練習をすることで、すべての楽曲の基本を身につけることができるのです。
HINKEにはじまり、HINKEに戻る。
それは、あなたがオーボエ奏者として成長すればなるほど、あなたご自身が確信することに違いありません。
ぜひHINKEの可能性を存分に活かして、オーボエ演奏力上達の最短距離を駆け巡ってください。